銀座 庵(いおり)で学ぶ江戸の酒と食

活動報告

■江戸っ子好みのお造りと下り酒の味わい

2019-08-09

今回のイベントは、単に江戸伝統のお酒と料理を味わうだけでなく、コの字型に配置されたカウンター越しに、ナビゲーターの上杉さんやうすいさんからお酒や料理についていろいろなお話しをうかがえることも大きな魅力です。例えば、上杉さんから日本酒とワインの違いについて、こんな話がありました。  「きょうは、できるだけ旬の食材を使いたかったので、昨日、仕入れの内容をみて料理を決め、それに合わせたお酒を選びました。お手元の献立表を書き上げたのは深夜12時ごろです。一つの日本酒には、だいたい400種類のいろいろな酸が入っています。ですから、どんな料理とも合わせやすい」。魚介類や野菜をよく使う和食では、どうしてもその日のお客さまの人数や仕入れの内容によって料理を左右されてしまう。だから、お客さまをおもてなしする直前にメニューを決め、マリアージュさせるお酒を選ぶのがいい、と上杉さんは言うのです。この日限りの特別な食事会じゃないと、できない芸当でしょう。  「でも、ワインだと、こういうお酒の選び方はできません。一つのワインには150種類ぐらいの酸しか入っていないので、料理の酸とピンポイントで合わせてマリアージュさせないと、どんなにいいワインや料理でも両方ともペケになってしまう。そこで、ソムリエが大事になります」。なるほど、料理の味付けとお店にあるワインを熟知したソムリエの存在理由はここにあるんですね。そして、日本酒はワインよりも料理に合わせるストライクゾーンが広いということですか。よくわかりました。  さて、テーブルにはお造りがでてきました。『そげの酒浸し』です。そげとは、小ぶりの平目のこと。平目はもともと西日本で使われていた魚の呼び方だそうです。歯ごたえのある刺身は、煎り酒でさっぱりといただきました。  「煎り酒は江戸時代で最高級の調味料でした。作り方はとても簡単です」。うすいさんがレシピを紹介してくれました。「おいしい純米酒を使い、弱火で煮詰めます。四合瓶のお酒を一合ちょいぐらいになったら、梅干しを三つ入れます」。作り方は簡単ですけど、お酒を4分の1になるまで煮詰めるなんて、ぜいたくな調味料です。  煎り酒は本来、煮詰めたお酒に昆布や鰹節を入れて作ります。でも、うすいさんが選んだ煎り酒は、純米酒と梅干しだけのシンプルな味付けでした。その理由はそげの身がとても締まっていたから。「大きくなりすぎた平目は、江戸っ子は『大味だ』といって、あまり好きではなかった。そげのサイズがちょうどいいんですね」と、うすいさん。  きょうのそげは東京湾に近い、茨城沖で捕れた小ぶりの平目とのこと。口に入れると、しっかりした弾力が感じられました。それを煎り酒ですっきりといただくのが『江戸の夏』の味覚なんですね。  続いて、揚げ物は『天然鮎の南蛮漬け』。食材となった琵琶湖の小鮎には、上品な苦みがあって、これも日本酒が進む肴です。  お酒は三重県伊賀市にある大田酒造の純米木桶仕込み『半蔵』が出てきました。『半蔵』は伊賀のヒーローである服部半蔵から名前を取った銘柄で、2016年の伊勢志摩サミットで各国首脳に振る舞われて有名になったお酒です。  上杉さんが『半蔵』を江戸料理にあわせた理由は、木桶仕込みにありました。現代の日本酒の多くはスチールやほうろうの容器で酒を醸造しますが、江戸時代には大きな木桶でお酒を仕込んでいました。木桶で醸造するといろいろな酸が入りやすいので、仕上がりにばらつきがあり、複雑な味わいにもなるそうです。  江戸時代の高級酒と言えば、なんといっても下り酒。灘をはじめ上方で造られた酒を船便で江戸に運んだため下り酒の呼び名ができました。「酒は杉の大樽に詰められ、船便で江戸まで運ばれました。運搬するうちに、杉香りが酒に移り、なんとも言えない良い香りの酒になりました。これが江戸っ子が愛した下り酒です」と上杉さん。そんな下り酒の魅力を木桶仕込みの『半蔵』で追体験する趣向でした。  江戸の夏を堪能するお酒と料理を味わううちに、ほんのりと酔いが回ってきました。会場もすっかり打ち解けた雰囲気になったところで、口直しに『西瓜糖』をいただきました。砂糖をたっぷり使った冷たい甘味は、まさに口福を感じさせてくれました。  終盤にさしかかった宴の様子は、体験記その3に続きます。

■江戸っ子好みのお造りと下り酒の味わい ■江戸っ子好みのお造りと下り酒の味わい ■江戸っ子好みのお造りと下り酒の味わい ■江戸っ子好みのお造りと下り酒の味わい